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得意・不得意と生成 AI

トム・ガリー Tom Gally
東京大学名誉教授

2023.11 Kagaku cover
『科学』2023年11月号掲載
 誰にでも得意なことと,不得意なことがある。それによって生成 AI への反応が違うようだ。
 私にとっては絵を描くことが不得意だ。子どものときは絵を描くのが好きだったし,15歳ぐらいのときには真面目に油絵を描こうとした時期もあった。しかし,人に褒められたことはなかったし,自分でも自分の絵を「うまい」と思ったことはない。大人になったら絵で食べていこうとは一度も考えなかった。
 プログラミングも不得意だ。もう30年間ぐらい,語彙集の整理などのために簡単なプログラムを書いてきたが,毎回苦労する。アルゴリズムをちゃんとわかっている人なら数行のスクリプトで作業を完成できるだろうが,私は数十行,数百行のダラダラしたプログラムしか書けない。そして,そのプログラムは脆い。最初は動いても,データの形式やパソコンの設定が少し変わったら実行不可能になってしまう。どう修正すべきかわからない。プログラマーとして生計を立てることはもちろん論外である。
 2022年の夏に OpenAI が開発した DALL-E 2 という画像生成 AI を試してみたらすぐにハマった。「A painting of a pear, a bottle, and a flower on a table at dusk」(夕暮れ,テーブルに置いてある洋梨,ボトル,花の絵画)などのプロンプトを入力したら,日展や二科展で見てもおかしくないような静物画のバリエーションがどんどんできてきて面白かった。イラストレーターたちの仕事がその技術に奪われそうだとすぐにわかったが,絵を描くことが不得意な自分には心配ない。
 2023年3月に,同じ OpenAI が GPT-4 を公開したときには,プログラムも書けることが一つの売り文句だったので,すぐに試してみた。「Create a webpage that switches to a different color every time you click on it.」(クリックするごとに色が変わるウェブページを作ってください)と頼んだら,すぐにHTML,CSS,JavaScriptが含まれるコードが出力された。最初はコードがうまく動かない場合があったが,普通の言葉でその問題を GPT-4 に伝えたらすぐに直してくれた。一部のウェブデザイナーはこれで仕事を失うだろうと思ったが,私は元々コード作成を仕事にできないので自分は安泰だと思った。
 私が生成 AI に脅威を感じるのは自分が得意としてきた分野である。それは言葉だ。
 40年前に来日してからずっと言葉関係で食べてきた。英文の校閲,英会話の指導,日英の翻訳,広告コピーの作成,辞書の編集,言語教材の執筆など,私の仕事の中心はずっと言葉である。ほぼすべての人間が言語能力をもっているので,平均的な才能だけでは商売できない。私には日本語ができる英語母語話者としての希少価値が確かにあったが,それよりも自分の努力で身につけていた言葉の知識とセンスが市場に認められたと思う。単語や文の意味を分析するにも,説得力のある英文を書くにも,学校で学べるようなテクニックだけでは物足りない。特殊なスキルも必要だ。私がやってきた言葉の仕事は一般の人には難しいので,コンピューターにとってはとても無理だと確信していた。
 それが誤解だと知ったのは,2022年12月1日だった。 ChatGPT が公開されてから数時間後に試してみたら,得意と自負していた言語能力は人間に限った能力ではないとすぐにわかった。コンピューターにもできるのだ。なおかつ非常に高いレベルで。
 最初にびっくりしたのは,ChatGPT が言葉の意味を正確に説明できたことだ。言葉の意味とは,アルゴリズムや数式で表わせるものではなく,感覚や思考や実世界の経験をもつ人間にしかわからないものだと思っていた。例えば,critical という英単語は,「批判的な」「批評の」「不可欠な」「批判的な」「批評の」「不可欠な」「臨界の」など,いろいろな意味をもつ。あるセンテンスにおいて critical がどのニュアンスで使われているのかを見分けるには,前後の文脈や著者の意図などを理解する能力が必要だ。その能力は人間にしかないと思っていた。しかし,囲み記事「critical の意味」に示すような課題を ChatGPT に投げかけたら,critical の微妙な意味合いを正しく説明してくれた。
  ChatGPT の文章作成能力にも仰天した。私が携わってきたもう一つの言葉関係の仕事は,英語論文の書き方を教えることだ。英文のアカデミック・ライティングで特に重要とされるのは段落の構造と論文全体の流れだ。すなわち,どの順番とどのような表現でセンテンスとセンテンス,パラグラフとパラグラフを連ねるか。母語で執筆する人にも簡単ではないが,特に外国語で書く人にとっては作文の構造は難しい課題である。一生懸命に勉強と練習を重ねても,自然なストラクチャーをもつ英文を書けるようになる日本の学生は多くない。
 英作文の入門コースでよく与えられる課題は事象の対照だ。本と映画,都会と田舎,自炊と外食などの類。数パラグラフにわたってそれぞれの特徴と良し悪しを比較することは英語の文法と語彙の練習だけではなく思考力の訓練にもなる。そのような作文には ChatGPT が優れている。その訓練データにあったはずの定番的なトピックだけではなく,今まで誰も書いたことがない対照についても,ChatGPT はとても良い文章を作成できた。宗教と靴,リンゴと自由,将棋とミシシッピ川など,とんでもない対についても創造的な発想で立派なエッセイが出力される(囲み記事「リンゴと自由」)。プロの物書きと自負する自分でもそこまで上手い文章を書ける自信がない。
 2023年の夏に,米国から来日した旧友のダンさんと食事をした。お互いの家族や趣味などについていろいろと話すうちに,私の頭から離れない AI の進歩を話題にした。しかし,スマホでジョークの解釈,詩の作成などを ChatGPT にさせてダンさんに見せたところ,彼は「ふーん」と返事をしただけ。私にとっては AI の言葉操りは今でもショッキングだが,ダンさんには単なる遊びにしか見えなかったようだ。
 数日間考えたら,ダンさんの冷静な反応をやっと理解できた。彼は若いときに建設現場の労働者,中年になってからは労働組合の幹部として働いた。彼が得意としていた仕事は,技能と道具と筋肉を使ってほかの人と協力しながら建物を組み立てること,そしてそれぞれの主張と利害関係をもつ組合員,雇用主,政治家などと交渉することだった。いずれも現在の AI にはまったくできそうもない。単語の意味の説明や文章の作成ができるソフトは面白いかもしれないが,彼が長年,得意としていた仕事には全然役に立たない。言葉で生きてきた私と違って,ダンさんの仕事は ChatGPT に奪われることはない。
 ダンさんと話したから生成 AI への反応は得意と不得意によって違うと私はやっとわかったのだ。

critical の 意味

プロンプト

 次の文の中で「critical」という言葉の意味を説明してください。複数の解釈が可能な場合は、すべて教えてください。

1. She was critical about his behavior.
2. She was critical to our project.
3. She was critical in her reading of the novel.
4. She was critical when she entered the hospital.
5. She was critical and about to explode in anger.

GPT-4の回答(2023.08.31)

「critical」という言葉は、文の文脈によって複数の意味を持つことがあります。以下に、各文における「critical」の意味を説明します。

1. She was critical about his behavior.
ここでは「critical」は「批判的な」という意味です。彼女は彼の振る舞いに対して否定的な評価や意見を持っていた、ということを表しています。
2. She was critical to our project.
この文脈では、「critical」は「不可欠な、極めて重要な」という意味になります。彼女は我々のプロジェクトにとって非常に重要であった、ということを示しています。
3. She was critical in her reading of the novel.
ここでの「critical」は「批評的な、分析的な」という意味合いです。彼女は小説を読む際に、分析的に考えたり、批評的な視点で読んでいたということを示しています。
4. She was critical when she entered the hospital.
この文の文脈では、「critical」は「危機的な状態の、重篤な」という意味です。彼女は病院に入ったとき、健康状態が非常に悪かった、あるいは命に関わる状態だったということを意味しています。
5. She was critical and about to explode in anger.
この文では、「critical」は「怒りのピークに達して、限界の」というニュアンスを持つかもしれません。しかし、この文脈での「critical」の正確な意味は少し不明瞭で、通常このような使い方はあまり一般的ではありません。しかし、文脈から考えると、彼女が非常に怒っていて、その怒りが爆発寸前であることを示唆していると解釈できます。

 これらの例からもわかるように、「critical」という言葉は文脈によって様々な意味を持つことができます。

リンゴと自由

プロンプト

英語でリンゴと自由を比較・対照する5段落のエッセイを書いてください。

GPT-4 の回答(2023.08.31,掲載にあたり小見出しを削除)

Comparing and Contrasting Apples and Freedom: An Unlikely Pairing

 At first glance, apples and freedom might appear entirely unrelated, two concepts that exist on entirely different planes of thought. Apples are tangible, physical objects, while freedom is an abstract, intangible ideal. Yet, with deeper introspection, one can find intriguing ways in which they can be compared and contrasted, providing insights into our understanding of both.
 Both apples and freedom are familiar to people across the globe. Apples, with their various cultivars, thrive in many parts of the world and are recognized even where they don’t grow. They're a symbol of health, knowledge, and sometimes even temptation. Similarly, the desire for freedom, whether personal, political, or emotional, is innate in humans. Most societies have historical tales of struggles and fights for freedom. While apples symbolize universality through their physical presence, freedom does the same through an innate human yearning.
 Apples require a specific set of conditions to grow and thrive. They need the right soil, climate, and care. Similarly, freedom, while inherent, is not automatically guaranteed. It requires nurturing. Societies must work continuously to ensure the freedoms they've attained are maintained. Like an apple tree that requires tending, freedom too needs vigilance and care to protect it from those who might suppress or remove it.
 An apple, once plucked from its tree, has a finite shelf life. If not consumed or processed, it eventually rots and perishes. Freedom, though not physical, also has a certain fragility. It can be lost, taken away, or given up voluntarily. Just as an apple can be consumed by pests or decay, freedom can be consumed by tyranny, complacency, or fear. The perishability of both reminds us of the importance of cherishing what we have and being proactive in its preservation.
 Although apples and freedom operate in different realms – one in the physical and the other in the conceptual – they offer a unique lens through which we can understand aspects of the world. Both have universal importance, require nurturing, and can be lost if not cherished. By juxtaposing these two seemingly unrelated entities, we are reminded of the tangible and intangible treasures we have and the continuous effort needed to maintain them.